アプローチ
ソーシャルワークの実践モデルとアプローチ
12の考え方を、一枚の地図にする
ソーシャルワークには、支援の進め方の「型」がいくつもあります。名前だけを覚えると混ざってしまうので、何に注目する型なのかでくらべられるように並べました。
どれかが正解でどれかが間違い、という話ではありません。目の前の人と場面に合う型を選べるようになるための地図です。
目次
まず、一枚の地図で見わたす
細かい説明の前に、全体を眺めてください。あとから何度でも戻ってこられます。
| 名前 | 主な提唱者 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 生活モデル(ライフモデル/エコロジカルアプローチ) | ジャーメイン/ギッターマン | 人と環境の相互作用。人と環境のすき間を埋める |
| ストレングスモデル | ラップ | 弱みではなく強みに注目する |
| エンパワメントアプローチ | ソロモン | 強みを燃料にして、本人の力に変えていく |
| 心理社会的アプローチ | ホリス/ハミルトン | クライアントを「状況の中の人」として見る |
| 問題解決アプローチ | パールマン | 診断主義と機能主義の折衷案。本人が主体 |
| 課題中心アプローチ | リード/エプスタイン | 大きな問題を、短期の課題に分けて片づける |
| 危機介入アプローチ | ラポポート | 危機のさなかに、早く・短く入る |
| 行動変容アプローチ | トーマス | 5つの段階を追って、行動の習慣を変える |
| 認知行動療法 | (総称) | 行動療法と認知療法をあわせた呼び名 |
| ナラティブアプローチ | ホワイト/エプストン | 本人の物語を、一緒に書き直す |
| 家族システム論 | ボーエン/ミニューチン ほか | 家族をひとつのまとまりとして見る(複数の流れがある) |
| ケースマネジメント/ケアプラン | — | ニーズと資源を結び、計画にする |
① 生活モデル(ライフモデル/エコロジカルアプローチ)
提唱者:ジャーメイン、ギッターマン。ソーシャルワーカーの土台になる考え方です。
人と環境はおたがいに影響し合っていて、その間にうまく噛み合わないところがあると問題が起きる、と考えます。だから解決するときは、人だけを変えようとせず、人・環境・その間のやりとりのどこに手を入れるかを選びます。
この考え方は、医学モデルと社会モデルを先に知っておくと、はっきりつかめます。
| 見方 | 問題はどこにあると考えるか | この人にどう向き合うか |
|---|---|---|
| 医学モデル | 個人のせい | 「病気の自覚が足りない」ととらえ、本人を教育しようとする |
| 社会モデル | 社会のせい | 「通院の足はあるのか」「待ち時間が長すぎるのではないか」と、まわりを疑う |
| 生活モデル | 人と環境のすき間 | 両方に少しずつ働きかけて、噛み合うようにする |
この「人と環境の関係」を目に見える形にしたものがICF(国際生活機能分類)だ、と説明されることがあります。
② ストレングスモデル
提唱者:ラップ。弱みではなく、強みに目を向けます。
クライアントの弱点や弱みではなく、強みに注目する考え方です。仕組みはとても素直で、覚えやすいものです。
援助者は、どうしても課題や問題といったうまくいっていないところに目が向きがちです。もちろんそれも必要な仕事です。ただ、そればかりだと、本人が動く力そのものが見えなくなります。
③ エンパワメントアプローチ
提唱者:ソロモン。本人が力を取り戻すための働きかけです。
クライアント自身に、力を獲得してもらうための考え方です。ストレングスモデルと並べて読むと、関係がはっきりします。
実務でも試験でも欠かせない考え方です。強みを見つけるところで止めず、それが力に変わるところまでが仕事だと覚えてください。
④ 心理社会的アプローチ
提唱者:ホリス、ハミルトン。診断主義の代表格とされます。
クライアントとのコミュニケーションを重んじ、面接を中心に進めるアプローチです。いちばんの特徴は、その人を単体で見ず、「状況の中の人」としてとらえるところにあります。人も環境も、あわせて見ます。
- 持続的支持
- 傾聴・受容・共感的理解など。関係を保ち、支え続けます。
- 直接的指示
- 援助者の意見を、はっきり示します。
- 浄化法
- 感情を吐き出してもらい、整理します。いわゆるカタルシスです。
- 人と状況の全体関連性の反省
- 人と環境の関わりの中で生まれている考えや感情に、気づいてもらいます。
- パターン力動的反省
- その人の考え方のくせ、行動の傾向をはっきりさせます。
- 発達的な反省
- 幼少期の体験をふり返ります。
⑤ 問題解決アプローチ
提唱者:パールマン。アプローチと呼ばれるものの中で、いちばん有名かもしれません。
診断主義と機能主義の折衷案として生まれました。①で見たとおり、この2つは対立していましたが、どちらも間違っているわけではありません。それなら合わせよう、というわけです。
問題解決の主体はクライアント自身です。本人が「これが問題だ」と考えていることを問題としてとらえます。したがって、自分の問題解決に援助を使おうという気持ちがある人に、よく効きます。
⑥ 課題中心アプローチ
提唱者:リード、エプスタイン。問題解決アプローチの発展形です。
大きな問題に正面からぶつかるのではなく、短い期間で解ける課題に分け、それを一つずつ片づけていくことで、大きな問題やニーズの達成を目指します。
いまでは当たり前の考え方に思えますが、当時としては画期的なものでした。期間と行動という枠組みを持ち込んだところに意味があります。
⑦ 危機介入アプローチ
提唱者:ラポポート。危機のさなかにある人に、早く・短く入ります。
字のとおり、危機の状態にある人に介入します。急性期の医療に似たイメージで、早期介入・短期支援が持ち味です。ここで落ち着いたら、ほかのアプローチに引き継いでいきます(急性期の医療から、回復期・慢性期へ移るような流れです)。
- 発達的危機
- ライフステージの上で起こりうる変化です。
入学・卒業・就職・恋愛・結婚・出産・家族との死別など。
マリッジブルーやマタニティブルーもここに入ります。家族との死別にはグリーフケアが行われます。 - 状況的危機
- 予期していなかった危機です。
災害・失業・犯罪の被害・病気など。
⑧ 行動変容アプローチ
提唱者:トーマス。行動の習慣は、5つの段階を通って変わると考えます。
人が行動(生活習慣)を変えるときには、決まった道すじを通る、と考えるアプローチです。禁酒・禁煙・ダイエットに当てはめると分かりやすいと思います。
| 段階 | その人の状態 | この段階での働きかけ |
|---|---|---|
| 無関心期 | 6か月以内に変えようとは思っていない | 動機づけを高める。両価性に働きかける |
| 関心期 | 6か月以内に変えようと思っている | 変わらない自分を否定的に、変わろうとする自分を肯定的にイメージしてもらう(自己の再評価) |
| 準備期 | 1か月以内に変えようと思っている | 変えられるという自信を持ち、周囲に宣言してもらう |
| 実行期 | 変えてから6か月未満 | 行動置換。続けやすい環境をつくり、周囲の支えを使う |
| 維持期 | 変えてから6か月以上 | 続けていることへの報酬を用意する |
⑨ 認知行動療法
行動変容アプローチを含む、行動療法と認知療法をあわせた呼び名です。
ひとつの技法の名前ではなく、総称です。ここでは、名前をよく見かける3つを挙げます。
- SST(社会生活技能訓練)
- 社会の中で人と関わって生きていくために欠かせない技能を、身につける訓練です。
考え方や思考のくせを見つけて改善するもので、デイケアや就労支援で多く取り入れられています。あいさつの練習、質問のしかたの練習などを、実際にやったことがある人も多いと思います。
新人職員の研修や、障害のある人の地域生活・就労の訓練にも使われます。 - アンガーマネジメント
- 直訳すると「怒りの管理方法」。怒りの頂点は6秒ほどだと言われ、そこをしのぐ方法がいくつも工夫されています。
・カウントバック … 数を数えて気持ちを静める
・コーピングマントラ … 「なんとかなるさ」など、自分を落ち着かせる言葉を繰り返す
・タイムアウト … その場を離れて気持ちをリセットする
・グラウンディング … 意識を別のものへそらす - アサーション
- 相手も自分も大切にする自己表現のことです。
・アグレッシブ(攻撃的な自己表現)… ジャイアン
・ノンアサーティブ(非主張的な自己表現)… のび太
・アサーティブ(この2つの間にある、望ましい自己表現)… しずかちゃん
ソーシャルワークの面接技法でいえば、アイメッセージにあたります。
⑩ ナラティブアプローチ
提唱者:ホワイト、エプストン。本人の物語を、一緒に書き直します。
客観的な事実よりも、クライアントの主観を重んじます。1つの事実に、複数の真実がある、という立場です。試験勉強を進めていて、この辺りに興味を持った人も多いのではないでしょうか。
⑪ 家族システム論
家族を、一人ひとりではなく「ひとつのまとまり」として見ます。
読んで字のとおり、家族を個人個人の集まりとしてではなく、システム(まとまり)として見る考え方です。一人の人物が作ったものではなく、いくつもの流れが集まってできた見方です。
| 人物 | 立場 | セットで覚える言葉 |
|---|---|---|
| ボーエン | 多世代(世代間)家族療法 | 自己分化・三角関係・多世代伝達 |
| ミニューチン | 構造派家族療法 | 家族の構造・境界・サブシステム |
そのうえで、家族をシステムとして見るときの見どころが、次の3つです。これは特定の一人の説というより、家族システムの見方に共通する枠組みとして整理されているものです。
- 構造
- 家族の構成です。子どもの成長や独立で、この構造は変わります。
- 機能
- 父親として、母親として、兄・姉・弟・妹としての働きです。
- 発達
- 構造が変われば、機能も変わります。この変化のことを発達と呼びます。
| 呼び名 | どんな動きか | 例 |
|---|---|---|
| ネガティブフィードバック | 元に戻そうとする働き | 過干渉、依存、空の巣症候群など。役割を取り戻すなど、肯定的に働く場合もある |
| ポジティブフィードバック | 変化に適応していく動き | 子どもが独立したあと、夫婦としての楽しみ方を見つけていくなど |
⑫ ケースマネジメントとケアプラン
ニーズと社会資源を結びつけて、計画にします。
ケースマネジメントの一環としてのケアプランです。ニーズと社会資源を調べ、地域での生活や自己実現を目指す。その計画書がプランである——それだけのことです。
「ケアプラン」と言うと介護保険の話に聞こえますが、介護保険に限りません。ソーシャルワーカーには、計画を立て、実行し、モニタリングする仕事が必ずついて回ります。
| 計画の名前 | 分野 | 根拠 |
|---|---|---|
| ケアプラン | 高齢者福祉 | 介護保険法 |
| サービス等利用計画 | 障害者福祉 | 障害者総合支援法 |
| 子ども自立支援計画 | 児童福祉 | 児童福祉法 |
| 個別支援計画 | 日常生活支援住居施設 | 生活保護法 |
| 地域福祉計画 | 各自治体 | 社会福祉法 |
| 地域福祉活動計画 | 社会福祉協議会 | 社会福祉法に根拠規定はない(社協が任意で立てる計画) |
国家試験ではどう問われるか
実践モデルとアプローチは、「ソーシャルワークの理論と方法」「ソーシャルワークの基盤と専門職」を中心に、毎年のように問われます。
- 名前と提唱者の組み合わせを問う形(「〜を提唱したのは誰か」)
- 説明文が、どのアプローチのものかを選ばせる形。似た説明が並ぶので、上の一覧表の「ひとことで言うと」を手がかりにする
- 事例を読ませて、その場面に合うアプローチや対応を選ばせる形
ほかの資料とのつながり
- パールマンの問題解決アプローチ … ⑤と⑥を、MCOモデル・6つのPまで含めて詳しく書いた1冊です
- マイクロカウンセリングの階層構造 … ここに出てきた技法を、面接のどの段階で使うかという順番で整理したものです
- バイステックの7原則 … どのアプローチを選ぶにしても、その手前にある向き合い方の原則です
- ドルゴフの倫理原則とEPS … 支援の中で価値がぶつかったとき、どちらを優先するかの考え方です
この資料は、管理人(ばっふぁ)が講義で使っているレジメと、その講義の板書原稿をもとに、サイトで読める形に組み直したものです。
講義では「ほんの触りです」と断っている通り、一つひとつを深く掘り下げたものではありません。聞いたことがある・触れたことがある、というだけでも、その後の学習は違ってきます。気になったものから、ぜひ深く調べてみてください。