返報性の原理
返報性の原理
人はなぜ「お返し」をしたくなるのか
何かをしてもらうと「こちらも返さないと申し訳ない」と感じる。この気持ちの動きを返報性の原理(Norm of reciprocity)といいます。
社会心理学者チャルディーニ(Cialdini, R.)が『影響力の武器』であげた6つの原理のひとつで、もっとも強く、抗いがたいものとされています。
対人援助の場面では、これは「使う技術」であると同時に、知らないうちに相手を動かしてしまう力でもあります。両方の面から見ていきます。
目次
返報性の原理とは
相手から受けた行為に対して、同じように返すことを求める社会規範です。義理や人情に近い感覚で、多くの場合は無意識に働きます。
- 受けた行為に、同じような行為で返すことを求める社会のきまり
- 本人が気づかないうちに働いている、強い心理効果
- 文化や社会を超えて、広く見られる現象
4つのパターン
受け取ったものの性質によって、返すものも変わります。
- 1.好意の返報性
- 好意や親切を受けると、お返しをしたくなる。
例:親切な対応をされて、つい買ってしまう/SNSで「いいね」を返したくなる。 - 2.敵意の返報性
- 敵意を向けられると、同じように返したくなる。
例:不快な接客に、こちらも冷たい態度で応じてしまう/一度不満を持つと、その相手のすることすべてが否定的に見える。
援助の場面でいちばん怖いのがこれです。 - 3.譲歩の返報性
- 相手が譲ってくれたから、自分も譲ろう、という気持ち。
例:特別に値引きされて、予算を超えても買ってしまう。 - 4.自己開示の返報性
- 相手が先に本心を明かすと、自分も心を開きたくなる。
例:「実は緊張しています」と打ち明けられて、話しやすくなる。
ドア・イン・ザ・フェイス法
譲歩の返報性を使った交渉のやり方です。
| 段階 | すること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | わざと大きすぎる要求をする | 1年間、毎週ボランティアをしてほしい |
| 2 | 予想どおり断られる | さすがにそれは無理です |
| 3 | すぐに本来の小さな要求を出す | では1日だけ、お願いできませんか |
最初の要求から引き下げた(譲歩した)ことで、相手は「こちらも応じなければ」と感じます。その結果、本来の要求が通りやすくなります。1975年の実験で効果が確かめられました。
援助関係で使うときの線引き
強い力だからこそ、使い方を誤ると相手の自己決定を奪います。
返報性は「相手が自分から返したくなる」形でしか働きません。迫った時点で、それは返報性ではなく圧力になります。
- 1.お返しを迫らない
- しつこく求めると、返報性が働かないどころか嫌われます。相手が自分から返したくなる状況をつくることが大事で、相手の自由な意思を尊重します。
- 2.相手にとって価値のあるものを渡す
- 自分が渡したいものではなく、相手が必要としているものを。価値を感じてもらえないものは、そもそも返報性を生みません。
- 3.渡すときを見きわめる
- 文脈に合わない差し出し方は、かえって不信を招きます。「下心がある」と受け取られる危険があります。
まとめ
- 返報性は人間に深く根ざした社会規範で、社会の協力を支えている
- 好意・敵意・譲歩・自己開示の4つのパターンがある
- 敵意の返報性は援助関係を壊す。こちらの苛立ちは、必ず返ってくる
- 自己開示の返報性は、面接で相手が話しやすくなる仕組みそのもの
- 強い力なので、迫らない・相手に価値のあるものを・時を選ぶの3つを守る
- 援助関係では、返報性が自己決定を弱めることがある。ここに自覚的でいる
参考にした資料
- Cialdini, R. B.(社会行動研究会訳)『影響力の武器』誠信書房
- Gouldner, A. W. “The Norm of Reciprocity: A Preliminary Statement”(1960)
この資料は、管理人(ばっふぁ)が講義で使っている資料をもとに、サイトで読める形に組み直したものです。
もとの資料は営業やマーケティングの例が中心でしたが、このサイトは対人援助の学習資料なので、「援助関係で何が起きているか」「どこから操作になるのか」に軸を移して書き直しました。