高齢・障害者
出所者の特別処遇

高齢・障害者出所者への特別処遇

再犯防止と社会復帰支援の取り組み

刑務所を出たあと、帰る家がない。身寄りがない。病気がある。そうした事情で生活が立ちゆかず、短い期間でまた罪を重ねてしまう人たちがいます。
この資料は、そこに福祉がどう関わってきたかを、制度のできた順に追いかけます。特別調整という仕組みが、再犯を大きく減らしたことがわかっています。

目次

刑事司法と福祉が近づいてきた道のり

平成13年の事件をきっかけに、連携が段階的に進んできました。

できごと
平成13年(2001)池田小事件。検討されていた医療観察法の議論が加速し、成立へ向かう
平成16年(2004)一部の刑務所で社会福祉士などの配置を開始
平成17年(2005)心神喪失者等医療観察法が施行。保護観察所に社会復帰調整官が配置される
平成21年(2009)社会福祉士の配置を全刑務所に拡大。特別調整が開始。地域生活定着支援センターの設置が始まる(平成23年度末に全都道府県で設置完了)
平成25年(2013)東京地検に社会福祉士が配置され、刑事施策に福祉の視点が入り始める
平成26年(2014)刑務所に福祉専門官を配置(社会福祉士の常勤化)
平成27年(2015)少年院にも福祉専門官を配置
令和元年(2019)長崎刑務所で知的障害受刑者処遇支援モデル事業が始まる
令和3年(2021)被疑者等支援事業を開始。刑事司法手続の入口段階での支援が始まる
令和4年(2022)刑法等の一部を改正する法律が成立。更生保護事業法の改正も施行
令和7年(2025)拘禁刑の施行。受刑者への個別的な指導・教育へ転換

何が問題になっているのか

刑事施設の高齢化が進んでいます。犯罪白書は、入所受刑者に占める65歳以上の割合を「高齢者率」として毎年示しています。

入所受刑者に占める65歳以上の割合(高齢者率)
入所受刑者うち65歳以上高齢者率
平成27年(2015年)21,539人2,313人10.7%
平成30年(2018年)18,272人2,222人12.2%

知的障害のある受刑者については、再犯までの期間が短く、入所の回数が多い傾向にあることが、法務省の研究で示されています。必要な支援がないまま、短い期間で罪を重ねてしまう状態です。

特別調整とは

平成21年4月から実施されている仕組みです。

項目内容
開始平成21年4月から実施
対象高齢または障害により、自立が困難な受刑者等
目的釈放後すみやかに、介護・医療・年金等の福祉サービスを受けられるようにする
実施機関矯正施設、保護観察所、地域生活定着支援センター 等

矯正施設と保護観察所が、地域生活定着支援センターをはじめとする多くの機関と連携し、適当な帰住先の確保を含めて、出所後の福祉サービス等について調整を行います。

特別調整の効果

再入所率が大きく下がることが、調査で確かめられています。

高齢出所受刑者の再入所率(法務総合研究所の調査)
区分再入所率
特別調整の対象になった人約10%未満(9割以上が再入所なし)
特別調整を辞退した人約50%(半数近くが再入所)

平成26年2月1日から3月14日までの間に刑事施設から出所した高齢出所受刑者を対象にした調査の結果です。福祉につながったかどうかで、その後がここまで変わることを示しています。

ソーシャルワーカーの配置

法務省は、矯正施設において福祉サービスのニーズを早く見つけ、円滑な社会復帰につなげるため、社会福祉士または精神保健福祉士を非常勤職員として配置するほか、福祉専門官(社会福祉士・精神保健福祉士または介護福祉士の資格を持つ常勤職員)を配置しています。

全国の施設数は、刑務所59庁少年刑務所7庁拘置所8庁(本所の合計74庁)、少年院43庁(分院6庁を含む)です(いずれも令和6年4月1日現在)。なお少年鑑別所は52か所で、少年院とは別の施設です。(施設数は統廃合で変わります。最新の数は原典で確認してください。)刑事施設への配置はほぼ行き渡っている一方、少年院への配置はこれからという状況にあります。

認知症スクリーニング検査
平成30年度に大規模刑事施設8庁で始まり、令和元年度に女子刑事施設2庁が加わって計10庁になりました。令和5年度からは全国の刑事施設へ広がっています。認知症等を早く見つけ、適切な支援につなげる体制です。
少年鑑別所による地域援助
検察庁からの入口支援への協力依頼を受け、被疑者等の福祉的支援の必要性を把握するための知的能力等の検査を実施しています。令和3年の依頼件数は305件(前年224件)で、大きく増えています。

刑事施設の区分

「刑事施設」と「少年矯正施設」は別のものです。

刑事施設は、刑事収容施設法にもとづき、刑務所・少年刑務所・拘置所の3つに分かれます。

区分主な対象目的・機能
刑務所刑が確定した成人受刑者刑の執行、矯正処遇、社会復帰支援(作業・教育・医療)
少年刑務所原則26歳未満の受刑者少年の特性に応じた矯正教育を加えた刑の執行
拘置所未決拘禁者(被告人等)、死刑確定者ほか勾留・拘禁の執行、裁判出廷・接見の管理

社会復帰支援指導プログラム

高齢・障害のある人などの円滑な社会復帰を図るため、基本的な動作能力・体力を保つ健康運動指導を行うほか、各種の福祉制度についての基礎知識を身につけてもらうプログラムです。

長崎刑務所の取り組み

全国で唯一の「社会福祉支援専門刑務所」です。

九州各県から知的障害のある受刑者を集め、専門的な支援を行う先進事例として知られています。アセスメントから、出所後の息の長い寄り添いまでを一続きで組み立てているところに特徴があります。

① アセスメントと処遇計画
その人の特性に応じて、作業・訓練・指導の内容を選ぶためのアセスメントを支援し、処遇計画を立てます。
② 訓練・指導の実施
知的障害のある人を多く雇用している企業の協力を得た作業の導入、就労移行支援事業所等のノウハウを取り入れた職業訓練、社会生活を見据えたライフスキル・ソフトスキルの習得、福祉制度への理解の促進。
③ 療育手帳等の取得支援
出所後に必要となる療育手帳について、在所中に取得できるよう調整します。必要に応じて、障害受容に向けたカウンセリングも行います。
上に見たとおり、知的障害またはその疑いのある受刑者のうち手帳を持っているのは3割ほどです。ここを在所中に整えられるかどうかで、出所後の暮らしが大きく変わります。
④ 息の長い寄り添い型支援
一般就労が可能な人には就労支援を、難しい人には福祉的就労のあっせんを、福祉的支援を要する人には必要なサービスへの引き継ぎを行います。出所して地元に帰ったあとも、地域の内外が連携して支援を続けます。

更生保護施設における特別処遇

法務省は、一部の更生保護施設を指定更生保護施設に指定し、社会福祉士等の資格を持つ職員を配置して、高齢や障害の特性に配慮した指導などの特別処遇を行っています。ほかに、民間の自立準備ホームなどもあります。

項目基準時点
更生保護施設数102施設令和7年4月1日
うち指定更生保護施設77施設令和7年4月1日
収容定員の総計2,382人令和7年4月1日
特別処遇の対象となった人1,877人令和6年度

※ 「更生保護施設数」は全国の総数、「指定更生保護施設」はそのうち特別処遇を行うために指定を受けた施設です。2つは別の数なので、混同しないよう注意してください。出典は『令和7年版 犯罪白書』第2編第5章第6節2。

まとめ

① 再犯率が下がった
特別調整の対象になった人の再入所率は約10%未満、辞退した人は約50%。福祉につながることの効果が、数字ではっきり出ています。
② ソーシャルワーカーの配置が進んだ
刑事施設・少年院に社会福祉士、精神保健福祉士、福祉専門官が配置され、平成30年度からは認知症スクリーニング検査も導入されました。
③ 長崎モデル
全国唯一の社会福祉支援専門刑務所として、九州各県から知的障害のある受刑者を集め、専門的支援を行う先進事例が確立しました。

このサイトで解ける関連問題

「刑事司法と福祉」は共通科目の1科目です(第38回では問58〜63の6問)。

参考にした資料

この資料は、管理人(ばっふぁ)が講義で使っている資料をもとに、サイトで読める形に組み直したものです。
数字はいずれも犯罪白書・法務省資料から取られています。施設数や人数は年度によって変わるので、**基準時点をいっしょに確かめて**使ってください。
※ 更生保護施設まわりの数値は2026年8月に原典で確認し直しました(出典欄のURLを参照)。