学んだこと
AIと一緒に仕事をして、学んだこと
コードが読めない福祉職が、業務アプリ11本をつくるまでに起きたこと
同じ棚にある体験記のスライドは、「つくれるようになるまで」の話です。
こちらはその続きで、「つくれるようになってから、気をつけていること」を書いています。
うまくいった話より、つまずいた話を多く入れました。そちらのほうが役に立つと思うからです。
目次
まず、期間の話から
ここを間違えると、あとの話が全部ずれます。
「AIを使えば、短い期間でアプリが作れる」——そう聞こえる話が多いので、先に正確なところを書いておきます。
| 何の期間か | いつからいつまで | 長さ |
|---|---|---|
| 入口から現在まで | 2025年前半より前 〜 2026年8月 | 13か月以上 |
| Claude Code を使い始めてから | 2026年3月20日ごろ 〜 2026年8月 | 約5か月 |
道具は、乗り換えたのではなく重なっていた
「AをやめてBにした」という話ではありませんでした。ただし、重なり方も一様ではありません。
使った道具を時系列で見ると、新しいものに乗り換えたのではなく、重ねて使いながら、少しずつ入れ替わっていたことが分かります。
| 時期 | 起きたこと |
|---|---|
| 2025年3月3日 | パソコンを買う(購入の記録が残っている) |
| 2025年3月中旬 | この時期の仕事の記録を見ると、まだAIを使っていない |
| この間のどこかで | Gemini を使い始める。Gemini Canvas で最初の2本、 Gemini Code Assist で3本目以降をつくる |
| 2025年6月25日 | 送ったメールの文面が、明らかにAIの助けを借りたものになっている |
| 2025年7月28日 | Manus(AIエージェント型のサービス)を使い始める |
| 2025年8月12日 | その2週間後、Claude の有料契約を一度始めた |
| 2025年9〜10月 | Claude の請求が止まっている(続かなかった) |
| 2025年11月18日 | Claude の契約を再開。ここから毎月続く |
| 2026年3月20日ごろ | Claude Code のデスクトップ版を使い始める |
| 2026年5月27日 | OpenAI の契約を追加。CODEX の併用が始まる |
| 2026年7月5日 | Manus の年契約が終了。以降ほぼ使っていない |
変わったのは道具ではなく、入口だった
いちばん大きな転換点は、ここでした。
体験記のスライドでは「Claude Code Desktop で、本当に変わった」と書きました。これはそのとおりなのですが、理由を取り違えると話が通じなくなるので、ここに書いておきます。
「新しいものが出たから、できるようになった」ではありません。前からあったものに、やっと入れたのです。
つくる前に、広める側にいた
2025年9月の研修資料が残っていました。そこに何が書いてあったか。
施設内のアプリを作り始めるより半年以上前の、AI活用の研修資料が残っています。日付は2025年9月です。
つまり、つくれるようになるより先に、広める側にいたのです。
| 決めていたこと | 中身 |
|---|---|
| 少しずつ始める | いちばん負担の大きい業務から入れて、少しずつ広げる |
| 扱える人から | 一気に全員ではなく、できる人が次の人に伝えていく |
| 成功体験を分け合う | 定例会で「どれだけ短くなったか」を共有して、効果を実感する |
順番でたどる ― 「完成日」は無い
日付ではなく、何のあとに何が来たかで見てください。
この先に出てくるアプリには、完成した日がありません。日付を忘れたのではなく、そもそも決められないからです。
そこで、日付ではなく順番で並べます。何のあとに何が来たか——そこにこそ、たどった道すじが出ています。
| 順 | 起きたこと |
|---|---|
| 1 | Claude Code のデスクトップ版に移った。ターミナルの入口は無理だと思っていたが、押せる画面になって入れた |
| 2 | ショートステイの部屋割アプリを作った。最初に本格的に作った施設内アプリ |
| 3 | 実調表、そして稼働管理表へ。日々の記録と集計まわりに広がっていった |
| 4 | 現場の愚痴が、そのまま次の仕組みになった(下の囲みを見てください) |
| 5 | 自作アプリをAIに採点させる工程を入れた。作りっぱなしにしないため |
| 6 | 荷物チェックアプリ(作り込みすぎて、現場では使われなかった)/シフトアプリに、もう一度挑んだ |
数字を疑う
いちばん危なかったのは、ここでした。
AIに資料を作らせたとき、こう書かれていました。
全受刑者のうち高齢者は1,345名で30.8%
気になったので、別のAIに原典を当たらせました。すると、こうでした。
似たことが、もう一度ありました。過去問の出題実績として並んでいた問題番号が、実在しませんでした。手元に正しいデータがあったので、突き合わせてすぐ分かりました。番号・年号・条文番号のように短くて具体的なものほど、それらしく作られます。
「授業で配ったから大丈夫」は通らなかった
教室とWebでは、権利の基準が違います。
講義で使っているレジメを、このサイトに載せようとしたときの話です。権利のチェックをしたら、4か所が引っかかりました。
- 教科書からの引用文(どの本の何ページか特定できない形だった)
- 教科書のページ番号
- 演習用の事例(実在の事例がもとの可能性があり、個人が特定されうる)
- レジメ冒頭の実名(このサイトはペンネームで運営している)
実際にやったのは、引用文は自分の言葉で書き直す、ページ番号は落とす、事例は載せない、並べ方は自分の教える順序に組み替える、でした。手間はかかりますが、これをやると自分の資料になります。
気をつけるのをやめて、機械に見つけさせる
人が注意し続けるのは、無理でした。
資料どうしをつなぐリンクで、`../dolgoff/` と書くべきところを `../dolgoff.md` と書き間違えたことがあります。プログラムはエラーを出さず、公開してから、リンク切れで気づきました。
同じ考え方を、ほかにも2つ使っています。
- 同じ材料から作る
- 本の一覧(蔵書目録)は、トップページと同じデータを歩いて作っています。「次に読む」も、棚の並びをそのまま使っています。
2か所に同じことを書くと、必ずどちらかが古くなります。材料を1つにすれば、片方だけ直し忘れる事故が起きようがありません。 - 直したら、変わっていないことを確かめる
- プログラムを整理したとき(1つのファイルを7つに分けたとき)、書き出されるページが1バイトも変わっていないことを毎回機械で確かめました。
「整理しただけ」のつもりが中身を変えてしまうのが、いちばんこわいからです。前と後をぶつければ、思い込みを使わずに済みます。
ただし、この考え方にも届かないところがあります。同じ日に、それがはっきり出ました。
しかも私は、絵を開いていませんでした。絵に付けてある説明文を読んで「表紙は大丈夫」と判断していたのです。もとを見ずに、もとの説明を見て決めた——この資料の「数字を疑う」で書いたのと、同じ間違い方でした。
止まる仕組みは強い。ただし、その仕組みが見ている範囲の外は、やはり人が見るしかありません。 どこまでが機械の担当で、どこからが人の担当なのか。そこを取り違えると、「仕組みを入れたから安心だ」という一番あぶない状態になります。
測ってから直す
感覚で直すと、直したつもりで直っていないことがあります。
このサイトのトップページには、レールの上を歩く猫がいます。つかんで動かすと部屋を見わたせるのですが、「動かすとカクカクする」という指摘がありました。
感覚で直さず、指の動きと猫の動きを測りました。
| 直す前 | 直したあと | |
|---|---|---|
| つまみが動ける刻み | 1.24px | 0.33px |
| 指とのずれが動いた回数 | 55/59 | 8/59 |
同じことが、外部のAIにサイトを評価してもらったときにも起きました。
50点のたたき台が、100点への近道になる
最初から完成品を目指さない進め方があります。
最初から100点の成果物を作ろうとすると、かえって前に進まないことがあります。頭の中だけで考えているうちは、何が足りないのかも、どこが危ないのかも見えにくいからです。
AIに頼むときも同じでした。最初の出力が完璧でなくても、まず形にしてみる。すると、「ここは使える」「ここは危ない」「これは名前を変えた方がよい」「この形では公開しない方がよい」といった判断が、具体的にできるようになります。
今回の予想問題づくりでも、最初にできたものは、そのまま公開できる水準ではありませんでした。けれど、そのたたき台があったからこそ、模試として出すには在庫が足りないこと、正答の作り方に癖が出ること、解説の質をもっと上げる必要があることに気づけました。最終的には、「予想模試」ではなく「一問一答/科目別演習」として作り直す方がよい、という判断につながりました。
仕事の資料づくりも同じです。最初から一人で100点を目指すより、50点の資料を早めに出して相談する。そうすると、相手の意見も入り、根回しにもなり、最終的には一人で抱え込むより良いものになっていきます。
何を外に出さないかを、先に決める
便利さの前に、線を引いておく話です。
施設内で使うアプリを作るとき、データをどこに置くかは、便利さで決めていません。
いまは、完成したアプリをNAS(施設内のネットワークに置く共有の保存装置)に保存して共有し、PowerShellとランチャーで動かしています。利用時のデータは施設内のネットワークだけで完結しています。
| 扱うもの | 置き場所 | そのぶん引き受けること |
|---|---|---|
| 利用者の個人情報 | 施設内のNAS | 手間は増える。そのかわり「外に出していません」と言い切れる |
| 公開してよい学習資料 | 外のサービス(このサイト) | 保存の仕組みを持たないぶん、書き出して反映する手間がかかる |
AIには書けないところが、はっきりある
ここが、この仕事のいちばん面白いところでした。
このサイトのマイクロカウンセリングの資料を作ったとき、技法の説明はひととおり書けました。ですが、あとから自分でこう書き足しました。
専門職として知識や経験を得れば得るほど、高度な技法からやり始めたくなります。これは人の性(さが)で、力が足りないから起きることではありません。
似た相談で物事を解決した経験があると、その答えを先に提示したくなる。指示を出したくなる。情報提供をしたくなる。
——けれど、本当はその前にやるべきことがあるよね? というのが、このピラミッドが言っていることです。
大事なのは、混ぜないことでした。定説として確立していることと、自分の見方は、読む人が区別できる形にしておく。この資料でも、そこは分けて書いてあります。
相手のやり方を見てから決める
つい最近やった、分かりやすい失敗です。
できあがったサイトを受け取る形を、「ファイルを1つにまとめよう」という話にしていました。そのほうが分かりやすいはずだ、と。
ところが、実際に画面を見せてもらったら、やり方はこうでした。
この形だと、まとめたファイルでは壊れます。展開して出てくるフォルダの中には、公開に必要な入口のファイルが直下にありません。そのまま置くと表示されず、しかも公開しなくてよいものまで一緒に出てしまいます。
これは、支援の場面とまったく同じ話だと思っています。よかれと思って整えた手順が、その人の暮らし方に合っていないことは、いくらでもあります。
「これは便利だ」と言われた日のこと
作ってよかったと思ったのは、自分が楽になったときではありませんでした。
作ったアプリを現場の人が使って、「これは便利だ」と言ってくれたことがあります。
そのとき思ったのは、「役に立ってよかった」よりも先に、こういうことでした。
福祉の現場で「AIを使おう」と言っても、なかなか伝わりません。言葉が難しく、遠い世界の話に聞こえるからです。
でも、目の前の困りごとが実際に減った道具があれば、話は別です。説明が要りません。使った人が、自分で分かってくれます。
言葉の地図
AIの話を読むときに、つまずきやすい言葉をまとめました。
難しく聞こえる言葉ほど、意味は素朴です。ここが分かると、AIの記事や説明が読めるようになります。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 生成AI | 文章やプログラムを作るAI。ChatGPT・Gemini・Claude など |
| AIエージェント | 指示に対して、調べる・作る・確認するまでを自分で進めるAI |
| ハルシネーション | AIがもっともらしい嘘を作ること。実在しない出典や番号が典型 |
| トークン | AIが文章を数える単位。利用量の計算に使う |
| コンテキスト | AIが一度に覚えていられる範囲 |
| スキル | 「こういうときはこう作る」を書いた指示書。AIが自動で読む |
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| コード | プログラムの本文 |
| .bat(バッチファイル) | ダブルクリックすると、決まった手順が走るWindowsのファイル |
| ランチャー | 各パソコンを回らずに、アプリを起動・更新できるようにする入口 |
| ターミナル | 文字で命令を打つ画面。入口としては、ここでつまずく人が多い |
| ビルド | 材料から、サイトやアプリの完成形を組み立てる処理 |
| デプロイ | 作ったものを、公開する場所に置くこと |
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| NAS | 施設内のネットワークに置く共有の保存装置 |
| クラウド | インターネットの向こうにある保存場所 |
| 閉域網 | インターネットにつながっていない、施設内だけのネットワーク |
| 静的サイト | 保存先を持たず、ファイルを置くだけで動くサイト |
| JSON | 人が読める形でデータを書き出す形式 |
| RAID | ディスクが1本壊れても止まらない仕組み。バックアップではない |
まとめ ― 結局、何が要ったか
- 期間は、何から何までかを添えて話す。短くまとめると、話が別物になる
- 入口と中身を分けて考える。「無理だ」と思ったとき、無理なのは入口かもしれない
- 「完成」で区切らない。使いながら直し続けるのが、自作の値打ちそのもの
- 数字は疑う。もっともらしさは、正しさの証拠にならない
- 教室とWebは、基準が違う。「授業で配ったから」は公開の理由にならない
- 気をつけるのをやめて、機械に見つけさせる
- 測ってから直す。外からの指摘も、自分で測ってから
- 何を外に出さないかを、先に決める。便利さはそのあと
- 現場でこう感じる、はAIには書けない。そこが自分の持ち場
- 相手の実際の手順を見てから決める。間違えたら取り消す
- 作れることと、使われることは別。作り込みすぎて使われなかったアプリがある
ほかの資料とのつながり
- コードが1行も読めない私が、AIで業務アプリをつくるようになるまで … この資料の前編にあたる体験記です(全39枚)
- マイクロカウンセリングの階層構造 … 「AIには書けないところ」で引いた資料です
- ソーシャルワークの実践モデルとアプローチ … 講義のレジメを、公開できる形に組み直した資料です
この資料は、管理人(ばっふぁ)の作業の記録から組み立てたものです。
日付や数字は、課金の履歴・サービスの利用履歴・作業の記録など、あとから確かめられるものだけを使いました。記憶だけで書いた期間や順序は載せていません。
施設名・職員名・利用者の情報は、素材の段階で落としてあります。